大判例

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仙台高等裁判所 昭和43年(う)166号 判決

本籍 岩手県西磐井郡花泉町油島字北沢三一番地

住居 仙台市茂庭字小畑山四県営住宅三二六

会社員 佐藤栄司

昭和一七年四月一四日生

〈ほか一名〉

被告人佐藤に対する傷害(一審認定暴力行為等処罰に関する法律違反)、暴力行為等処罰に関する法律違反、同藪田に対する傷害(一審認定暴力行為等処罰に関する法律違反)各被告事件について、昭和四三年四月二〇日仙台地方裁判所が言い渡した判決に対し、検察官ならびに原審弁護人青木正芳、同小野寺照東から、それぞれ控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

被告人両名は無罪。

理由

検察官の控訴の趣意は、仙台地方検察庁検察官検事丸山源八名義の控訴趣意書記載、これに対する答弁は、弁護人勅使河原安夫、同青木正芳、同小野寺照東、同斉藤忠昭共同名義の答弁書、答弁書補充書および同勅使河原安夫、同青木正芳、同小野寺照東共同名義の「検察官控訴趣意書に対する答弁の補充書」各記載のとおりであり、弁護人の控訴の趣意は、右弁護人四名共同名義の控訴趣意書、同(その二)および控訴趣意補充申立書各記載、これに対する答弁は、検察官検事猪狩良彦名義の答弁書記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。

弁護人の控訴趣意第一点、(本件の背景となる事実についての誤認)の主張について。

所論は、要するに、原判決が認定した、「本件の背景となる事実」について、(一)、自由民主党政府(以下単に政府という。)の反動文教政策が本件の背景となっているのに、これを無視して認定をなさず、(二)、東北大学青葉山、川内地区移転計画についても、右計画が政府の、日本の軍事化と経済の高度成長政策を進めるための一連の文教政策に基づくものであり、その科学技術振興政策からすれば、当初は同大学工学部の移転のみが考えられていたのに、全学的討論はもちろん、当該各教授会における検討も了解もなしに、同大学全体が青葉山、川内地区に移転するという計画案が同大学事務局によって作成されたのであって、その本質は、独占資本の要望に応ずるための大学に作り変えることにあるのであって、移転計画案そのものが、大学の自治を否定するものであるのに、これを無視して認定をなさず、(三)、同大学教育学部教員養成課程分離問題についても、政府の反動文教政策の一環としてのものであるのみか、その分離経過においても、当時の星教育学部長は、大学の自治の中核である(教育学部)教授会の自治を侵害、破壊しているのに、全く無視して認定をなさず、(四)、同大学農学部の青葉山移転問題についても、当初、青葉山内の久保田山地区を同大学用地に確保する手段として同学部も青葉山に移転するという、いわゆる同大学事務局素案が作成されたに過ぎなかったのに、その後、同学部が久保田山地区に移転することを前提として前記教員養成課程分離に伴う仮称宮城学芸大学の設置が農学部の現在地を予定する形に右素案が変質したのは、大学の自治を破壊しているのであり、その後は、この変質をあくまで強行しようとする立場とこれに抵抗する立場とのたたかいが進行したのであるのに、これを無視して認定をなさず、(五)、東北大学における民主勢力は、以上のような大学の自治の侵害に対し、これを守るためにたたかって来たのであり、東北大学自治会連合が同大学評議会の開催される本件当日、同大学本部に集合するに至ったのも、農学部の久保田山強制移転阻止という大学の自治を擁護するための正当な目的のためであったのに、これに目を覆い認定しなかった点において、事実誤認があると主張する。

原判決認定の、本件の背景となる事実は、関係証拠を総合すれば、本件発生に至るまでの経緯を述べたものとして是認できるのであって、さらに記録を精査し、当審における事実取調の結果に徴しても、原判決には右の点につき事実誤認のかどは存しない。原判決の認定しない事実に関し事実の誤認あることを主張する所論は、控訴の趣意として不適法であり、採用の限りでない。論旨は理由がない。

弁護人の控訴趣意第七点(憲法二三条の解釈を誤り、不法に公訴を受理した違法の主張)について。

所論は要するに、原判決は、大学の自治の解釈を誤り、大学の運営に関する自治侵害の事実を容認し、学生は大学のにない手ではないと判示して学生の大学自治に対する主体的参加を否定し、また、大学には自主的秩序維持権能が認められているのに、大学の自治の解釈を誤り、違法な警察権の介入を合法化した誤りを犯したものであって、結局憲法二三条の解釈を誤ったため、不法に公訴を受理したものであるから、公訴棄却を免れないと主張する。大学の自治は、大学の施設と学生の管理についても及ぶし、大学にはこれらのことについて自主的な秩序維持の権能の認められていることは所論のとおりであるが、しかしそれも全面的にではなく、おのずから限度があるものと考えられ、もちろん治外法権を持つものでもないから、大学内においてではあっても、いやしくも傷害事件や暴力行為事件が生起した場合、これを探知した警察が警察権を発動することはやむを得ないところというべきであるから、原審が憲法二三条の解釈を誤って本件公訴を受理した違法は存しない。論旨は理由がない。

検察官の控訴趣意(原判示罪となるべき事実一、についての事実誤認の主張、および弁護人の控訴趣意第二点(同事実についての理由のくいちがいおよび事実誤認の主張)について。

検察官の所論は、原判決は、原判示一、において、同二、の根立に対する暴力行為以前の段階のみを捉えて被告人両名の暴力行為の事実を認定したが、被告人両名は本件暴行における主導的役割を演じた指揮者であり、曽我事務局長の傷害発生時点においても、被告人両名の同事務局長を椅子ごと階下に連れ出すことについての共謀関係が継続していたのであり、右根立問題による一時的部屋の出入りによっては共謀の継続になんら消長を来たすべきものではない。しかも被告人佐藤においては、傷害の直接原因となった同事務局長の椅子ごとの押出行為自体に直接加担しているのであって、被告人両名には本件傷害につき共謀共同正犯が成立するものというべく、これを認定しなかった原判決には事実誤認があると主張するのであり、弁護人の所論は、原判決は、曽我事務局長が学長室から同事務局長室に入室した理由につき、午後三時四五分ころ、騒がしくなった事務局長室の様子をうかがうためと認定したが、同事務局長は学長室に同室していた広中教授から、事務局長室には多数の学生がおり、しかも新設扉設置の件で学生は村上学生部長に対しその責任を追及している旨好意ある忠告をされ、事務局長室の状況を熟知しながら右忠告を無視して入室した点、入室後挫発的言動をなしたことを看過している点、事務局長室にいた祖川教授から評議会出席の機会を与えられその退室は容易であったのに、学生らが容易に脱出できない状態にしたと認定した点、また、被告人藪田は二回目の押出行為をなしていないのにこれを認定した点に事実誤認があり、なお、被告人藪田が二回にわたり押出行為をなしたと認定しながら、原判示の末尾に括孤書で、但し被告人藪田は最後の押し出し段階から加担したと認定している点において、理由のくい違いがあると主張する。

よって審按するに、≪証拠省略≫を総合すれば、次の事実を認定できる。

原判決が、本件の背景となった事実の欄の四の(二)および(三)において、認定判示する状態すなわち本件当日予定されていた青葉山移転推進本部会議および評議会に対する学生らの妨害を予想して大学本部二階廊下に新たに扉を設置するに至った経緯、本件当日における同大学事務局長室における被告人佐藤を会見代表団長とする学生らと学長との会見状況、その後、事務局長室に残った村上学生部長と被告人佐藤ほか右学生らとの応酬、二階廊下あるいは階下ホールにいた学生二〇名ぐらいがさらに事務局長室に入り込み同室が騒然となった状況下において、午後三時五〇分過ぎころ、それまで隣りの学長室で評議会の開催を待機していた曽我事務局長が騒然としていた自己の部屋の様子をうかがうため、学長室から事務局長室に入室したが、右入室時から午後四時三〇分ころまでの間において、被告人佐藤その他の学生と応接用肘かけ椅子に腰かけていた曽我事務局長との間に応酬があったこと、被告人佐藤らの、「椅子ごと下に持って行け」との発言による、事務局長に対する椅子の揺り動かし、押し倒し行為、次いで同被告人の、「テーブルごと持って行け」との発言による、事務局長が腰かけた応接用テーブルを廊下側に傾けて倒しかけた行為があったこと(以上の段階までは、被告人藪田も事務局長室にいたが、被告人佐藤その他の学生と共に積極的言動をなしたことは認められない。)、さらに、被告人佐藤、同藪田および他の学生二、三名が肘かけ椅子(前の二脚にベアリングが取り付けられていた)に腰かけていた事務局長を椅子ごと二回にわたり廊下の方向に向けて押し出した行為があったこと、(右行為を見かねた同席の村上学生部長は、午後四時三〇分ころ、やむなく学生らの要求に応じ、階下ホールの学生らに新設扉の説明をするため、事務局長室から階下に降り、被告人藪田もこれに続いて階下へ降りた。)は、原判決の罪となるべき事実欄一、記載のとおり認定することができる。その後もなお、被告人佐藤ら学生らと事務局長との間に応酬が続いたが、同五時ころ、同二、のいわゆるスパイ文書に関し、庶課根立総務掛長に対する事件が生起したため、同五時二〇分ころ、被告人佐藤は他の学生らと退室するに至り、その後は、学生土屋慶之助、山脇武治ら数名が残ったに過ぎず、同人らは、事務局長に対し、主として新たなスパイ文書の件について追及したが、事務局長はスパイ文書ではないとの一点張りだったため、階下へ降りて学生らに説明することを要求してはいたものの、椅子ごとの押し出し行為等積極的行為はなされなかったことも、同六時ころ、根立事件が一応落着するや、右土屋および一度根立問題で階下に降り、再び事務局長室に上って来た学生植松大義、その他その場に居わせた学生下垣光也、今野正保、前田正洋らが、再び事務局長を椅子ごと廊下に向けて押し出しはじめ、学生らが右椅子を押し出すと、事務局長は両足を踏んばって後方へ押し戻し、数回これを繰り返すうち、事務局長は少しずつ廊下に向って移動したが、前後の押し出し行為により右椅子が事務局長室と廊下との間の敷居(高さ約二センチメートル)近くまで押し出された際、事務局長は、両足の靴のかかとを右敷居に当てて踏んばり、室外へ押し出されまいとしたが、遂にこれに抗しきれなくなり、片足を上げ、上体をねじった瞬間、腰部に電撃様の激痛を覚え、加療約六週間を要する椎管内障の傷害を負うに至ったこと、以上の事実を認定することができる。

そして右の事実によれば、最後の押し出し行為と右傷害との間に因果関係の存することもまた明らかである。ところで、被告人藪田が午後四時三〇分ころ、村上学生部長に続いて階下に降りたことは前認定のとおりであって、根立事件後の同六時ころの押し出し行為の際、事務局長室に在室したと認めるべき証拠も、また、これに直接加担したと認めるべき証拠もないことは原判決の説示するとおりである。また、同佐藤についても、右行為時、事務局長室に在室していたと認めるに足りる証拠はない。もっとも、≪証拠省略≫によれば、同被告人は、階下から上って来て、同時刻ころの押し出し行為の際、事務局長室にいたというのであるが、同被告人の具体的行動については認識するところがなく、その供述内容も極めてあいまいであり、右の行為当時、その場にいて学生らの行動を目撃していたと認められる他の大学当局側証人らの原審における各供述記載中にも、同被告人がその際、その場にいた旨の記載がないことに徴しても、右河野証人の供述記載中右の部分は措信できない。(検察官の論旨中には、唯一の目撃証人である同人の検察官に対する供述調書を刑事訴訟法三二一条一項二号後段の書面として請求したのに対し、原審がこれを却下したことを云々する部分があるが、事実誤認の前提として主張したに過ぎないし、また、≪証拠省略≫からしても特信性があるものとは認められない。)被告人両名が、根立事件後の押し出し行為の際、犯行現場にいたことを認めるに足りる証拠のないことは前記のとおりであるところ、本件についての起訴状記載の公訴事実は、原審における検察官の釈明をも加えると、本件当日被告人両名は、他の数名の学生と現場において共謀のうえ、午後四時ころから同六時ころまでの間、曽我事務局長に対し、「バリケードを作った理由を下の学友の前で説明しろ。」と要求したが、同人が応じないため、被告人ら両名において、同事務局長をとり囲んでいた一〇数名の学生らに対し「局長を下に連れ出せ」と大声で指揮し、他の学生四、五名と共に、局長が腰かけていた椅子およびテーブルを倒して同人を床上に転倒させ、さらに同人を腰をかけた椅子ごと押し出す行為を繰り返し、午後六時ころ、同人を椅子ごと強引に事務局長室外に押し出し、よって同人に椎管内障の傷害を負わせた、というのであるから、被告人両名がたとえ、前示午後六時ころの押し出し行為の繰り返しの際、現場にいなかったとしても、共謀した他の学生らが当初の共同意思を継続し、その継続した共同意思実現のために事務局長を階下へ連れ出すための行為をするにおいては、被告人両名としては、なお、共謀共同正犯としての責任を免れることができないことは論を待たないところである。

これを本件についてみるに、原判決も説示するとおり、当日午後三時五〇分前に行なわれた事務局長室における学長会見の際、学生の代表団長として指導的立場にあった当時東北大学自治会連合副委員長の被告人佐藤は、その後同室に残った村上学生部長に対し、バリケードの設置責任について主として追及をなし、さらにその後入室した事務局長に対しても同様他の学生よりも一きわ目立った追及をなし、事務局長が追及を無視し、大勢の学生が入室したことを難詰するや、他の学生らに対し、「椅子ごと下に連れ出せ。」とか、「テーブルごと持って行け。」などと号令をなし、これに応じて付近の学生が椅子やあるいはテーブルに手をかけてこれを持ち上げようとして傾けたりしたが、局長の身体に手をかけて連れ出しを強行するまでには至らず、なおも階下へ降りるよう説得交渉が続けられ、その間被告人両名の前記退室までに被告人藪田らの椅子ごとの押し出し行為がなされたのであるが、それも若干の押し出しに過ぎず、しかも若干押し出された事務局長が足を踏んばって後退するのをその都度阻止しようとした行為すらも認められないのであって、以上の事実からすれば、事務局長に対する右一連の行為は、むしろ事務局長が階下に集っている学生らに対する説明のため、自発的に階下へ降りるよう誘い出す手段であったとみられ、その共同意思自体、その場限りのものであって、発言どおりの、局長を椅子ごと室外に押し出して階下の多数学生の前に連行しようとする程度のものとはいえず、まして是が非でもこれを実現しようというほど強固なものであったとは認められないのである。したがって現場において意思を共通にして個々的に行動している間はともかく、その場を離れた後までも、他の学生らを拘束するほどの確定的強固な共同意思が形成されていたとは認められない。

以上の事実からすれば、前示のとおり、被告人両名が事務局長室からそれぞれ退室することによって、もはや他の学生らとの共犯関係は絶縁し、被告人藪田の退室後約一時間三〇分、同佐藤の退室後約四〇分の後における押し出し行為は、被告人両名とは別個の共同意思主体によってなされたものとみるのが相当である。したがって被告人両名は、午後六時ころ以後の土屋慶之助ら数名の学生の前記行為による曽我事務局長の本件傷害について、共謀共同正犯の成立はないものといわなければならない。さらに記録を精査し、当審における事実取調の結果に徴しても検察官所論のような事実誤認があるものとは認められない。検察官の論旨は理由がない。

次に、弁護人の論旨について判断する。原判決の罪となるべき事実の欄一、において、被告人藪田につき、二回にわたり事務局長の椅子ごと押し出し行為をなしたと認定しながら、末尾に括孤書で、但し、被告人藪田は最後の押し出し段階から加担したと判示していることは、判文上明らかである。しかし、右記載事実を通読すれば、曽我事務局長に対する行為としては、まず、数名の学生が事務局長の腰かけていた応接用肘かけ椅子を持ち上げようとして揺り動かして前に押し倒したこと、次に、事務局長が立ち上って脇の応接用テーブルの上に腰かけたところ、数名の学生がテーブルの両端に手をかけ、テーブルごと持ち上げようとしてテーブルを廊下側に傾けて倒したこと、その後、被告人藪田は、他の二、三名の学生とともに事務局長の腰かけていた椅子ごと二回にわたって押し出したことの四回の行為が記載されているのであって、これによれば被告人藪田については、右二回にわたる押し出し行為をなしたことを判示していることが明らかであり、原判決が括孤書で判示しているのは、これを意味するものと解されるから、原判決にはなんら理由のくいちがいの違法は存しない。また、なるほど、≪証拠省略≫によれば、事務局長室で学生が騒いでいる際、隣りの学長室に事務局長と共にいた広中教授が、事務局長が自室へ行こうとするのに対して、同室には学生がいる旨忠告したのにもかかわらず、これを意に介せず入室したことが認められるが、間もなく評議会が始まろうとする段階において、自室において学生らが騒然としているのを聞いた事務局長としては、その様子をうかがおうとして入室したとしても、あながち責められるべきことではないというべきであり、また、≪証拠省略≫によれば、事務局長が被告人佐藤に対し、「お前が佐藤だな、覚えていろよ。」または、「お前が佐藤だな、最初にやってやる。」と話したことが認められるが、これをもって事務局長が挑発的言辞をなしたものとも、本件行為が右言辞があったために行なわれたものとも必ずしも認め難く、さらにまた、≪証拠省略≫によれば、事務局長がボールペンを振り廻した後、祖川教授の助言により学生の代表若干名となら会見する旨一応話し合いの形になった際、同教授が学生らに対し、事務局長が評議会に出席しなければ、評議会の審議に支障があるだろう、事務局長に出てもらうべきだと話したところ、学生らは静かになったが、折角同教授の助言があったのに、事務局長からはなんらの応答もなく依然テーブルの上に腰かけたままであったことが認められるが、しかし、当審証人曽我孝之に対する尋問調書によれば、同人としては、その場の雰囲気は到底脱出できる状態とは感じられなかったというのであり、以上論旨に主張する事実を認定しなかったからといって、原判決には事実誤認があるものとは認められない。論旨はさらに、被告人藪田に関する村上証言、吉岡証言には信用性がないのに、これを証拠として被告人藪田の押し出し行為を認定した点に事実誤認がある旨主張する。なるほど、原審証人村上恵一の供述記載中には、当日午後、本件前に事務局長室において行なわれた学長会見の際、被告人藪田もいた旨の記載があるところ、≪証拠省略≫によれば、前記学長会見に立会っていた当時の教育学部長である林教授が今野正保学生が学部長会見の呼び出しに来て退席し、隣室の庶務部長室において、ほぼ学長会見の終了時まで学生と会見したが、その席上に被告人藪田がおったし、学長会見から退室する際、被告人藪田が一緒に出たことがないというのであって、被告人藪田は学長会見の際学生代表には加わっていなかったものと認められるから、この点においてくいちがいが存するのである。しかし、村上証人は、当時学生部長として学生の厚生補導事務の総括責任者であったこと、学長会見の際の学生代表者として被告人藪田はさておき、その他の者の名前を他の関係証人よりもかなり具体的に述べていること、さらに事務局長の入室後、同室にいた学生の名前や位置関係等を他の関係証人よりもかなり具体的に述べていること等に徴すれば、原判決が信用性の根拠として一律にその地位、年輩、社会的経験の深さを掲げているのは妥当を欠くけれども、その信用性を認めるに足り、学長会見の際、被告人藪田がいた旨の部分は記憶違いと認められる。

また、原審吉岡証人の供述記載中には、事務局長室から廊下へ降りる途中(右吉岡は、村上学生部長が階下の学生らに説明のため降りた際、同部長に続いて階下へ降りた。)、だれかが水を持って来いというのは聞いた、事務局長へ水を持って来たことは後で芳賀から聞いた、水を持って来いというのは芳賀の声のように聞いた旨の部分があり、原審証人芳賀繁の供述と、その時期の点においてくいちがいがあり、この点については信用できないものがあるが、その余の点については、同人が学生部学生課総務掛長として、事務局長室における学長会見後も引き続き同室に残り、村上学生部長が階下へ降りるまで同室にあって、いわば大学当局側の看視役をなしていたものであり、また、被告人両名とも面識があることが認められ、学生らの行動の目撃状況もかなり詳細かつ具体的であって、十分信用するに足りるものと認められる。弁護人の論旨は理由がない。

弁護人の控訴趣意第三点(原判決の罪となるべき事実二、についての事実誤認の主張)について。

しかし、原判決挙示の関係証拠を総合すれば、原判示二、の事実は、すべて十分これを認定することができる(但し、原判示中には、階下に連行した学生らが根立総務掛長を階下ホールの床上に「投げ出した」旨認定している部分があり、根立、石井両証人の各供述記載中には、「放り出した」との表現がなされているところからすれば、右の投げ出しとは、同人の足を持ち上げて階下ホールへ運び降ろしていたのを、手を離してその場に降ろした行動を表現したに過ぎないものと認められる。)。所論は、原判決の挙示する証拠のうち、証人村上恵一、同曽我孝之、同石井久夫、同佐藤養治および同飯野泰秀の各供述記載には信用性がない旨主張するが、右各供述記載を子細に検討すると、右各証人は、各々の立場なり位置から被告人佐藤らの根立庶務掛長に対する行為や、同被告人の学生らに対する発言や、その他の挙動を直接見聞したまま述べているものと認められ、根立総務掛長を事務局長室から階下ホールへ連行した被告人佐藤のほかの名前についても、不分明な者については、不分明ななりに、明確な者については逐一その名をあげて述べているほか、各供述記載は必ずしも同一内容ではないのであって、各証人が事前に打合わせのうえ、供述したものとは、とうてい認められないから、十分信用するに足りるものというべきである。原判決の挙示しない前認定と異なる、原審における各証人の供述記載は、前記各証拠に照らし信用できない。さらに記録を精査し、当審における事実取調の結果に徴しても、原判決には所論のような事実誤認があるものとは認められない。論旨は理由がない。

弁護人の控訴趣意第四、第五点(いずれも訴訟手続の法令違反の主張)について。

所論は要するに、本件起訴に係る第一は、昭和四〇年七月一七日午後三時五〇分(控訴趣意書中、午後四時とあるのは誤記と認める。)ころから同六時ころまでの時間帯における曽我事務局長に対する暴力行為による傷害を一個の公訴事実としているが、しかし、その中間において、根立総務掛長のスパイ文書問題が発生したため、曽我事務局長に対する暴力行為は、中断され、その後の傷害の直接原因となった暴力行為との間には共謀関係の継続的存在は認められず、したがって右前後の暴力行為は吸収関係または包括一罪の関係ではないのに、原判決は、罪となるべき事実一、において、起訴されない右根立事件前の曽我事務局長に対する暴力行為の事実を認定した。これは公訴事実の同一性の範囲を越え、起訴されない事実について判決をなし、また、起訴された傷害の事実について判決しない違法がある、仮に公訴事実の同一性があるとしても、原判決は、訴因、罰条の追加変更の手続をなさないで暴力行為を認定した、以上の諸点において、訴訟手続の法令違反があると主張する。

よって審按するに、曽我事務局長に対する暴力行為が、根立総務掛長のスパイ文書問題により中断され、その後の曽我事務局長に対する暴力行為は、被告人両名とは無関係な別個の共同意思主体によってなされたものであること、同人の被った傷害は、右後者の暴力行為のうち、最後の押し出し行為によるものであることは前認定のとおりである。しかし、本件起訴状記載の公訴事実第一を通読すれば、昭和四〇年七月一七日の午後三時五〇分ころから同六時ころまでの間における被告人佐藤および同藪田の他の学生らとの共謀による一連の共同暴行の結果、曽我事務局長に対し起訴状記載の傷害を負わせたことを訴因とするものであることは明らかであるから、原判決の罪となるべき事実一、の所為は、当然起訴状記載の訴因に包含されているものというべく、原判決が公訴事実の同一性の範囲を越え、起訴されない事実について判決をなした違法は存しないし、また、原判決は、一連の共同暴行の結果傷害を負わせたとの訴因について被告人佐藤および同藪田の暴行の所為と結果たる傷害との間に因果関係がない趣旨の判断説示をなしているのであって、もとより傷害の事実につき無罪を言い渡すべき場合には当らないから、原判決には、起訴された事実につき判決をなさない違法も存しない。また、原判決の認定した右の事実は、起訴状記載の公訴事実と同一性があることは、右認定により明らかであるところ、前認定のとおり、原判決の認定した右事実は、起訴状記載の傷害の訴因に包含されているところであり、かつ防禦上なんらの不利益をも及ぼしていないものと認められるから、罰条こそ異なるけれども、これを暴力行為等処罰に関する法律一条所定の事実と認定し、右法条を適用するに当り、訴因および罰条の変更はこれを要しないものというべく、この手続をなさない違法も存しない。以上いずれの点よりするも訴訟手続の法令違反はなんら存しない。論旨は理由がない。

弁護人の控訴趣意第六点(正当行為の主張)について。

所論は、要するに、本件各行為が形式的には犯罪構成要件に該当するとしても、被告人らの本件行動の目的が自民党政府の反動文教政策と産業合理化政策に反対し、右政策の現われである東北大学における教育学部教員課程の分離問題と青葉山川内地区移転整備計画に反対し、その必然の帰結である大学の自治の侵害から大学を守るためのものであって目的が正当であり、またその手段方法が相当であること、すなわち曽我事務局長に対する行為は、なんら設置の合理的必要性のない前示新設扉、いわゆるバリケードを挑発的に設置し、不正手段によって大学の自治を侵害する行為を排除するための行動として相当なものであり、根立総務掛長に対する行為は、学生の思想調査を目的とした文書を摘発するためにとられた行動として相当なものである。ことに、根立総務掛長に対する行為は、個人の身体の自由の一時的拘束に過ぎないのに反し、本件スパイ文書は、学生らの憲法一九条によって保障された思想の自由ひいては大学の自治を侵害するものであって、法益均衡の点からみても手段が相当である。また手段方法の必要性、緊急性があった、すなわち曽我事務局長に対する行為については、さきの教育学部教員養成課程分離の際における評議会の強行決定の例からみて、当日青葉山川内地区移転計画の強行採決のおそれが十分ある客観的状勢にあったもので、大学の自治を守る必要性と緊急性があり、根立総務掛長に対する行為については、スパイ文書というたぐいの性格から考えてもその場で差し押えない限り思想の自由に対する侵害を具体的に排除することは至難のことであり、いかにしても直ちに当該文書を差し押えなければならなかったのであり、緊急かつ必要な手段であった。したがって右各行為は実質的違法性を欠き、超法規的に違法性が阻却される場合であって、刑法三五条により罪とならないと主張する。

思うに、違法性の内容を実質的に考察すると、それは法秩序全体の理念に反することに帰する。したがって、刑罰法上構成要件に該当する行為が、刑法所定の法令による行為、正当防衛、緊急避難の各要件に合致しない場合であっても、刑法三五条の趣旨に照らし正当行為とされる場合があることは認めざるを得ない。そしてこれを肯定すべき判断基準としては、当該行為により達成しようとする目的の正当性、目的達成のための手段、方法の相当性、当該行為により保護される法益と侵害される法益との均衡の諸点に徴し、これらを考量し、なお、全体としての法秩序の理念に反しないものであることを要するものと解すべきである。

被告人らに対する原判示罪となるべき事実は、いずれも暴力行為等処罰に関する法律一条の構成要件に該当すると認め得るので、所論にかんがみ順次判断する。

一、曽我事務局長に対する行為について、

大学は、学術の中心として、深く、かつ、広く真理を探究すべき専門的研究、教授の場としての本質から、伝統的に自治が保障されて来たし、その機能は自由にして創造的な研究と教授にふさわしい学園としての環境と条件を保持することを中心的要請とする。それは、教授、その他の研究者(原判決にいわゆる教員団)が自主的に決定し管理すべき権限と責任を有するものであるが、学生は、大学における不可欠の構成員として、学問を学び、教育を受けるものとして、その学園の環境や条件の保持およびその改変に重大な利害関係を有する以上、大学自治の運営について要望し、批判し、あるいは反対する当然の権利を有し、教員団においても、十分これに耳を傾けるべき責務を負うものと解せられる。

本件の背景となった東北大学の青葉山、川内地区移転計画、教育学部教員養成課程分離問題、農学部移転問題は、戦後東北大学が直面した最大の問題であり、同大学の学園環境および組織に将来にわたって重大な改変をもたらす案件であった。しかるに右教育学部教員養成課程分離問題の処理に当っては、直接当事者の反対意見に十分耳をかさず、全学的合意のないまま結論を急ぎ、その過程において、学生の意見、批判を無視し、これを回避し、あるいはむしろ敵視する態度をとったこともあり、学生の間に東北大学における危機感を強めて来たし、懸案の大学の青葉山、川内地区移転問題、農学部移転問題についても、教員団の意見が必ずしも一致しなかったことは原判決が認定したとおりである。

新設扉の設置は、かかる経過の中で、右移転問題に関する大学の自治権能に参加し、これを守ろうとして行なっている学生の意見と批判とを物理的に封じようとしたもので、しかもそれが教員団の同意や了解もなく、事務当局において独断で設置したことについて、被告人両名および学生らが大学の自治の侵害であると認識し、右扉設置の責任者である曽我事務局長に対し、これに抗議し、その撤去を求めるため、階下ホールに集合している学生らに扉設置の理由の説明を要求したことは当然の措置といえる。しかるに、同局長はこれを拒否したことから、被告人両名が学生らと共に本件所為に出たことが明らかである。

この点について、原判決は、被告人らの心情についてはこれを了解し得ないでもないとしながら、被告人両名の曽我事務局長に対する判示行為は、最高学府に学ぶ学生としてはあるまじき、節度ある抗議行動から逸脱した集団的暴力行為であるから、目的が正当であるからといって、その手段において、とうてい正当性があるとはいえないと判断している。

被告人両名が他の学生と意を通じて同局長に対してなした暴行は原判示のとおりであるが、これを一言にしていえば、同局長が被告人らの要求を拒否し、階下に降りることをがえんじないため、同局長が腰かけていた応接用肘かけ椅子あるいは応接用テーブルを動かしたというに尽きる。そして証拠によって明らかな右の行為の状況、態様からみて、右の暴行は、同局長に対し、階下に降りるよう要求し、説得し、あるいは懇願したが、特段の理由もないのに、頑としてこれに応じないため、翻意を促し、階下に降りるよう誘い出すための心理的強制を加えようとする意図に出たものと理解することができる。

被告人佐藤が、「椅子ごと下に持って行け」、「テーブルごと持って行け」と叫び、他の学生がこれに同調して、同局長が腰かけていた椅子あるいはテーブルを持ち上げようとして傾け倒したり、あるいは被告人藪田が他の学生と共に同局長が腰かけていた椅子を廊下出入口近くまで押し出しはしたが、椅子あるいはテーブルのまま同局長を階下に降ろすことが不可能であることは、その場の何人も了知していたものと認められる。そして前記新設扉の設置という不正な侵害状態がなお存続している状況のもとにおいて、同局長に対し右の程度の行為に出たことをもって、社会通念上、その目的を達する手段において相当性を逸脱しているものとは認め難いところである。すなわち、被告人らの行為は、その動機、目的の正当性に照らし、かつ、採った手段において、その際における具体的状況に照らし相当であり、法益侵害の程度が軽微であることにもかんがみれば、右の行為により保護される法益と侵害される法益との均衡の点からみて、右は法秩序全体の理念に照らし、前記罰条をもって処罰しなければならないほどの違法性があるとは認められない。結局被告人両名の行為は、実質的違法性を欠き罪とならないものと認めるべきであるから、これを有罪とした原判決は違法性阻却事由の存在について事実を誤認し、ひいては法令の適用を誤ったものというべく、右の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄を免れない。

二、根立総務掛長に対する行為について、

本件行為は、原判示のとおり、当日午後五時ころ、事務局長室に入っていた学生らが事務局長の机上に集積されていた書類をかき回しているのを根立総務掛長が発見し、これをとがめて書類を全部かき集めた際、学生の間から、「この中に我々の思想調査をした書類がある。それを出せ」という声が上り、右根立と押問答している間に、学生の一人が、「これが思想調査の書類だ」といって、一文書を引き抜いたが、根立がこれを取り戻し、奪取されることを恐れて、その文書を丸めてズボンの左脇ポケットに入れ、机に体を押しつけて取られまいとし、被告人佐藤ら学生が、同人に対し、右書類の提出をつめ寄ったが、同人がこれを拒否したことに端を発したことが明らかである。

ところで、右文書は、「入学式当日における日本民主青年同盟系学生の行動について」と題するもので、東北大学の名の入った用紙二葉にわたり、学生部の作成名義のもので、その内容を子細に検討すればともかく、卒然として表題を見れば、特定の思想関係の学生の行動を監視し、あるいは情報の収集をした結果の文書であると解され易く、これを一見した学生が、思想調査文書であると速断したことは無理からぬところであり、かつ、身をていしてその提出を拒否する根立掛長の行動から、ますますその疑念を深めるに至ったことは、やむを得ないところといえる。

原判決は、右の事情を肯認しながらも、これに対処するために、被告人佐藤ら学生の採った行動は、その手段、方法において、もはや健全な社会通念と法律秩序の精神に照らし、とうてい是認できないと判断している。

被告人佐藤が他の学生らと意を通じてとった行為は、大略原判示のとおりであり、要するに根立掛長が身をていして文書の提出を拒否しているため、同人を階下ホールまで連行したこと、そして同所において、集合していた多数学生の意向に従って、さらに同人に提出を要求したが、これに応じないので、同人のズボンのポケットから右文書を取り上げたというものであり、その際加えた暴行の態様は、階下に連行する際左右の腕を取り、同人が廊下側入口付近に座り込み降りようとしないため、さらに後からズボンのバンドをつり上げて階段降り口まで引出し、あるいは階段を足を持ち上げ、宙に浮かせて階下に運び降ろしたこと、また、文書を取り上げる際は、同人を胴上げするようにして、かかえ上げたことに帰着するのであり、それは執拗に拒否する同人を階下に連行するため、あるいは文書をズボンのポケットから取り出すための手段として必要な行動の範囲内に止まり、それ以外同人に無用な攻撃あるいは苦痛を与えることを意図し、かつ、かかる行動に出ている形跡は認められない。(原判決が、階下に連れ出した学生らが、同人を階下ホール床上に「投げ出した」旨認定しているが、右の投げ出しとは、同人の足を持ち上げて運び降ろしていたのを、手を離してその場に降ろした行動を、かく表現したに過ぎないと認めるべきことは、先に判断したとおりである。)

ところで、原判決は、その際に事実を究明し、明確ならしめる措置として、右文書を是非とも同人から取り上げなければならないほどの緊急性、必要性はなかったものと判断している。

しかし、学生の思想調査文書は、学問、思想の自由が特に尊重されるべき大学において、もともと学内に存在すべからざる文書であるのみでなく、性質上、その内容は学生に秘匿されるべきものであるから、これが事務局長室において発見され、事務局員が身をていして、その提出をがえんじない事態に際会した際、直ちに右文書を入手しなければ、とうてい後日に至って事実を究明し得ないと判断するのは、けだしやむを得ないところといえる。学生らが右文書を発見した事務局長室内で、直ちに根立掛長から文書を取り上げる措置に出なかったのは、事の重大性にかんがみ、階下ホールに集合していた多数の学生らの意見に従って処置しようとしたものにほかならず、そのため、同人を階下に連行したことも是認し得るところである。

そして、階下ホールにおいて、その場に集合していた多数の学生らの意見に基づいて、さらに同人に文書の提出を求めたが、同人がこれに応じなかったところから、その場に居合わせた村上学生部長(右文書の作成責任者)、石井庶務課長(根立掛長の直接の上司)に文書の提出を説得するよう助力を求めているのであり、それが両名によって拒否された結果、同人からの文書の取り上げ行為に及んだことが明らかである。すなわち、被告人佐藤ら学生は、文書の取り上げに際し、尽すべき手段、方法は尽していることが認め得るのであって、当時の具体的状況にかんがみると、右は緊急にして必要やむを得ない措置として是認できる。

被告人佐藤の根立掛長に対する行動は、大学内における思想の自由を擁護する目的に出たものであり、その方法、手段もその際における具体的状況に照らし相当な行為と認められ、かつ、右行為により保護される法益と侵害される法益の均衡の点をも考慮すると、右は法秩序全体の理念に照らし、前記罰条をもって処罰しなければならないほどの違法性があるとは認められない。結局右被告人佐藤の行為は、実質的違法性を欠き罪とならないものと認めるべきものであるから、これを有罪とした原判決は、違法性阻却事由の存在について事実を誤認し、ひいては法令の適用を誤ったものというべく、右の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

よって、刑事訴訟法三九七条一項、三八二条、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但し書により、さらに次のとおり判決する。

本件起訴状記載の公訴事実は、「第一、被告人佐藤栄司、同藪田佳則の両名は、共謀のうえ、昭和四〇年七月一七日午後三時五〇分ころから同六時ころまでの間、仙台市片平丁七五番地所在の東北大学本部二階事務局長室において、同大学事務局長曽我孝之(当六〇年)に対し、バリケードを作った理由を下の学友の前で説明しろと要求したが、同人が応じないため、その場にいた他の学生らに、局長を下に連れ出せと怒鳴り、他の学生五、六名と共に同人が腰かけていた椅子および応接用テーブルを倒して同人を床上に転落させ、さらに同人が腰をかけた椅子ごと強引に押し出すなどの暴行を加え、よって同人に対し約六週間の加療を要する椎管内障の傷害を負わせ、第二、被告人佐藤栄司は、同日午後四時五〇分ころから同五時四〇分ころまでの間前記事務局長室において、同大学庶務部庶務課総務掛長根立満(当四五年)に対し、同人が所持していた文書の提出を要求したが同人が応じないため、他の学生らに、下に連れて行けと怒鳴り、他の学生六、七名と共同して同人の腕、足腰を持って同室から階下正面玄関に連れ出し、同所において他の学生一〇名位と共同して同人の手足をとり、胴上げする恰好で身体を持ち上げるなどの暴行を加えたものである。」というのであるが、前叙のとおり、第一のうちの傷害の結果については、犯罪の証明がなく、第一のうちのその余および第二については罪とならないから、刑事訴訟法三三六条により、被告人両名は無罪たるべきものとし、主文のとおり判決する。

検察官 国分則夫 出席

(裁判長裁判官 山田瑞夫 裁判官 阿部市郎右 裁判官 大関隆夫)

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